恋をしようよ
久地さんがDJを始めたとたん、彼女はうずうずしながら、ずっとDJブースに熱い視線を送る。
必死でその曲についていこうとするように、一つ一つの曲をすべて記憶に焼き付けるかのように。


「ああ、この繋ぎがカッコいいなあ・・・」

曲に合わせてリズムを刻む姿が、さっきまでのつまらなそうな彼女とは違っていた。



「ホント好きなんだな。」

俺はそんな彼女の姿に、ちょっと嫉妬していた。
大好きな音楽を聴いているときの彼女は、今日一番の笑顔だったのだから。


定番のBabyやLieWooがかかると、フロアには人だかりがして盛り上がってきた。だけど、彼女はじっとその場所から離れようとしない。




「ねえカズ、踊らないの?」

いつもここで会う常連の女の子に声をかけられて、一人で楽しんでいるナツをそっとしておいてあげようと思い、さりげなくその席を離れた。


久地さん定番の、一番盛り上がる曲が流れると、もう次は石井さんとバトンタッチで、そのままのノリでフロアは盛り上がったままだった。


「おつかれ~♪」

俺は久地さんとハイタッチしながら、一緒にバーカウンターの方に戻る。


「彼女どう?」

そう耳打ちされて、まあまあですかねぇなんて適当に答えていた。

「口説くと言うよりは、普通に友達になるようなノリですね?ガード固いし。」


俺達の様子を、ナツが見つけたようで、嬉しそうにこちらに駆け寄ってくる。

「久地さん、さっきのあの曲なんですけど・・・」

キラキラした目をしてさっきの場所に引っ張っていくから、俺もつられてついていった。



久地さんは、ずっと笑顔で、彼女の音楽談義にあきもせず付き合ってあげている。

その話は割と一方的ではあったけれども、彼女は楽しそうだ。


一通り話が終わると、彼女は気がすんだのか、じゃあそろそろ帰りますねって言いながら席を立った。


「じゃあ俺も帰ろう、送ってくよ。」

いつものノリでそういうと、彼女は明らかに嫌そうな顔をする。


おいおい、さっきまであれだけ打ち解けていたのに、まだそれかよ。


「大丈夫です、一人で帰れますから。」

そういって一人ですたすたといってしまおうとするけれど、久地さんに
「たまには送ってもらえよ、女の子なんだから一人じゃ危ないぞ。」
なんて言われて、やっと素直になってくれたようだった。



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