恋をしようよ
池乃壕のお稽古場は、カズヤさんの実家でもあって、田園調布の豪邸だった.
広い庭には季節の花が咲きほこり、池の真ん中には睡蓮が優雅に浮んでいた。

カズヤさんの甥っ子と姪っ子も一緒にお花を習う。

久しぶりに生ける花たちは、私に昔を思い出させてくれる。
まだ何も気にせずに、未来にいっぱいに夢を持ってキラキラしていたあの頃。

リンドウの花を手に取り気持ちを集中させる。


いつからだろう、”どうせわたしなんか”と思う事が日常になっていた。


花を生けていると、そんな自分を忘れさせてくれる。
それぞれの花がみな美しくて、それぞれが主役で脇役で、お互いを引き立てあっっている。


「お姉さん上手だね!」

やんちゃそうに笑いながら、蓮君が私にそう言ってくれた。

桃ちゃんにも、お母さんが活ける花みたいだって言われる。

蓮君と桃ちゃんのお母さんは、カズヤさんのお姉さんだ、
有名な華道家の方だからなんとなく知っている。


私はただ、綺麗だと思うそのままの気持ちを形にしているだけなのに。

そしてカズヤさんの生ける花を見ると、私の平凡な生け花とはまったく違っていて、型に嵌っていない独創性があって素敵だと思った。

まるでパンクロックのようなその花は、カズヤさんそのものだと思った。
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