恋をしようよ
「カズヤ、これプレゼントね。」

そういって渡されたのは、小さな花束で、姉ちゃんは何も言わなかったけれどもすぐにわかった。
これは小百合が作ったんだって。
彼女の結婚式に俺が送った花のお返し、そういったところだろう。

ピンクのバラとガーベラとダリア
どれも主役になる花達、それをカスミソウが柔らかく包んでいる。

「可愛らしいですね。」

ナツはそれを見ながら静かに微笑んでいる。そんなしぐさを見ていると、ああもう俺も大丈夫だと心から思えた。


「おっさんさ、なんでずっと隠してたんだよ彼女いたの。」

酒もすすんできた頃、エイジがそんな風に絡んでくるので、いつも馬鹿な下ネタばかりここで話していたから、そういうネタにはしたくなかったんだと思いながらも適当にごまかす。

「俺も最近まで知らなかったもん、カズさんって結構なんでも話してそうで、大事なことはいわねーよな。」

「そうだっけ?決まったパートナーは居るって言ってた気がするけどなあ。」

いつも手馴れたように、俺にお酌をしてくれるエイジは、ついこの前までは高校生でもガンガン飲んでたのに、最近は桃に注意されたのか全然飲まなくなっていた。まあそれが当たり前っちゃ当たり前だけど。

そんな桃は、ナツの隣に座って、なにやらひそひそと話し込んでいるみたいで気になる。
いつもは姉ちゃんと2人で、料理を作ったりしてるのにな。

「何話してんだよ?」

「カズおじちゃんには秘密の話だよ」
ニヤニヤして桃が答えた。

「私はずっと知ってたもんね~」

なんだか余計なことを言ってそうだなと思うけど、ナツがやたら嬉しそうにしているからまあいいか。

「なっちゃんって、音楽ライターしてるんだよね?」

姉ちゃんがそんな風に話の流れで聞くと、急にエイジが反応して「え?もしかしてあの夏川淳さん?」なんて聞いてくるから、ナツも適当にそうですよって答えている。

「ええーー!おれめっちゃファンなんですよ、あのこの前親父のバンドのレポとか書いてくれてたでしょう?」

急に身を乗り出し俺を押しのけてエイジが話し出すから、ナツもけっう有名人なんだなと改めて気付いた。

「もしかして雷神の鉄さんの息子さん?どおりで似てると思った。」

ナツは音楽の話になると止まらなくなるから、なんだかちょっとエイジに妬けてきたけれども、初めてここに連れてきた割にはみんなになじんでいてよかったなと思う。

大野とさっちゃんも、なんだかずっとニコニコしてこっち見てるしいな。

「本当によかったなあ、カズさん…」
大野がなんだか、半泣きになって呟く。

「俺ずっと独身を貫くのかと思ってましたもん。」
義兄ちゃんも笑いながらそんなことを言った。


みんな何気に、俺のこと心配してくれてたんだなと、ありがたくもなんだかくすぐったいような気持ちになっていた。
< 49 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop