恋をしようよ
「うちどこ?」

大通りに出て、タクシーを拾おうと手を上げても、今日に限ってなかなか停まってはくれない。

「私地下鉄で帰りますから。」

「待てよ、まだ始発じゃないだろ。」

「時間が来るまで、ファミレスで時間つぶしてるんで大丈夫です。」

それならまだ店にいればいいのになってちょっと思ったけど、そういえば石井さんとトラぶったんだっけ?
あの人のDJが終わらないうちに帰りたかったのかな。


「じゃあ俺も付き合うわ。」

ちょっと強引だったかなと思ったけれど、俺は彼女と近くのファミレスに入る。
適当にコーヒーを頼むと、彼女はハーブティなんかを頼んでいた。


「何で私なんかにかまってるんですか。」

ナツは不思議そうに、それを飲みながら俺に聞いてくる。

「うーん、なんていうか、単純に興味があるって感じかな。」

久地さんに頼まれたからっていうのは、もうこの際どうでもよかった。本当にこの子がどういう子なのか、もっと知りたくなっていたんだ。


「今日はナンパできませんでしたね。」

「いや、今してるしね。」

彼女は嫌味で言ったつもりだったのに、俺の返しに一気にキョドりだす。


「何言ってんですか・・・」

俺はコーヒーをブラックのまま一口飲むと、やっぱこういうとこのはあんまり美味しくないなって思った。
姉ちゃんの入れたコーヒーが飲みたい・・・


「べつにさ、声かけた娘と毎回やるわけじゃないんだぜ。」

どうせさっきの曲じゃないけど、やりたいだけだと思ってんだろうな・・・
若い頃はそういう時期も確かにあったけれども、男ってもっとナイーブなもんなんだぜ。


「今日はそういう気分じゃないだろ?
まあ、お望みとならば、いつでも抱いてやるけどな。」


どっかの映画で聞いたような、歯の浮くような台詞を思わず言っていた。

でもその時は、本当にそう思ったんだ。



「もう、そうやって心にも無い事ばっかり言うんだから。」

彼女の目をまっすぐ見ながらそう言ってみたのに、すぐに目をそらされてしまうから、どうしても捕まえたいと思ってしまった。

ナツはハーブティーを飲み干すと、そのままテーブルにうつ伏せになった。


「もう眠いから、ちょっとだけ寝ます。」

そのまま俺の返事も聞かずに、すやすやと寝息をたてている。



このままお持ち帰りしていったらどうするつもりなんだよ・・・無防備に寝やがって。



俺はそんなナツの柔らかい髪を撫でながら、始発が出る時間までずっとその寝顔を見守っているしかなかった。



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