恋をしようよ
「姉ちゃん、ナツって知ってる?」

いつもの姉貴の花屋の奥で、俺はやっと美味しいコーヒーにありつきながら、そんな会話をしていた。

「知ってるよ、久地さんのファンの子でしょ?いつも来てるよね、ロックナイト。」

なんかあったのって言われて、別になにもないけどって話を濁した。

ナンパしたのに何も進展がないのは、何だかちょっといつもの俺としては話しづらかったから。


「カズさんが他の女の子の名前出すの、久しぶりだね。」

隣に居た大野に突っ込まれて、そんなんじゃねーよってごまかした。


「いきなり来てコーヒー飲みたいってどういうことよ?」

いつも酒ばっかここで飲んでるから、ゆっくりここでコーヒーを飲むこともそういえば久しぶりだな。
大野もつられて、お行儀よく俺の隣で一緒にコーヒーを飲んでいる。


「ナンパに失敗したんでしょ?あの子結構お堅いところあるからね。」


姉ちゃんも自分のコーヒーを入れて隣に座ると、やけに鋭いことを言ってくる。

「そんなんじゃないってば、別にあいつにそういう感じになれないし。」

なんなんだろうな?
いつもは気になった女の子がいれば、やりたいって真っ先に思うはずなのに、あいつにはそうは思えない。
だからといって、嫌いとかじゃないしな。


ただ漠然と、また会いてーなーって思うだけ。

例えば、可愛い甥っ子姪っ子達に会いたいなって思うのにちょっと似てる。
会うとなんか、心がほっこりするっていうか。




「もうなんでもいいからさ、特定の彼女作っちゃえばいいのに。」

自分がさっさと結婚しちゃったからか、大野は最近やけにそうやって俺の心配をしてくるのでめんどくさい。
別に、結婚なんてどうでもいいんだけどなあ俺は。

そんなこと言うと、親父にマジで説教させられそうだけど。


「ほら、俺モテるからさ・・・」

いいなと思う女の子は今でも複数いるし、あっちの方も適当に付き合ってくれるパートナーもいる。

ただ、小百合と別れてからは、もうお弟子さんとどうこうするって事はやめにしたんだ。
最近の弟子は、みんな若くなってきちゃって、俺の許容範囲外になってるし、年相応の人はみんな既婚者だ。

今では教室の弟子の女の子からは、アイドル的な扱いを受けている感じ。


「俺ももう年かねえ・・・ただ落ち着きたいだけなのかな。」

俺よりずっとおじいちゃんみたいな大野が、やっと気付いたのなんて笑っている。


「まあでも、男はこれからでしょ? カズヤももっとまともな恋愛しなさいよ。
私はナツちゃん、いいと思うよ。」



そういえば、今日はちびっ子達はどうしたんだろうって聞いたら、義兄ちゃんが近所の公園に連れて行ってるらしい。珍しいなインドアなヤツなのに。


「もうすぐ帰ってくるよ、夕飯の時間だから。」




「早く会いてーなー」

蓮と桃の頭をなでまわして和みたいって思うのは、俺も子供が欲しいってことなんだろうか?




< 6 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop