恋をしようよ
「何だ、普通にしゃべれるんじゃねーかよ。」

ちょっと挙動不審な感じが良かったのになって思いながら呟いてたら、何ですかなんて全く聞こえてなかったみたいでちょっとほっとする。


今日はやけにテンション高いなって思っていると、久地さんも加わってまた先週のような音楽談議が始まってしまった。



俺はずっと、2人の話を聞きながら、適当に相槌を打っていると、ちょうど飲んでいた酒がみんななくなったのに気付いて、なんとなくお代わりを買いに席を立つ。



「スプモーニとビールとスコッチロックね。」


ドリンクカウンターで酒を頼んでいると、石井さんに声をかけらてしまった。



「カズ、あの女狙ってんの?辞めとけよらしくないじゃん。」


誰のせいでこうなってんだって思ってちょっと可笑しくなったけど、でも逆に今は感謝してる位だな。



「たまにはね、下心ない女の子と話したいんですよね。あの子面白いっすよ。」

ついでに石井さんの分のビールも頼んでやると、お礼を言われてカンパイした。



「俺は無理だわ、ああいう色気のないやつ。なんかムカつくし。」



「でも、そう思ってても、直接言っちゃダメっすよ。久地さんから聞きましたよ、酷いこと言ってたって。」


そう、俺は関係ないけど、DJの人達にとってはここに来てる人はみんな大事な客なはずだ。

「俺もちょっと、酔って言い過ぎたなって思ってるよ。」


石井さんも反省してるんだな・・・ こういう素直なところは、この人の可愛らしいところだなっていつも思う。だからたまに羽目をはずしても、みんなに愛されてるんだなって思う。


「じゃあ、謝っちゃいましょう。」

俺は2人の酒を持って行きつつ、石井さんもナツのところに連れて行ってあげた。




久地さんにビールを、ナツにはスプモーニを渡してあげると、石井さんが一緒に居たことにすぐ気がついて、ナツはなんとなく逃げ腰になっていた。



「この前はすまなかったな、ちょっと言い過ぎた。ゴメン。」


石井さんがそう言って頭を下げると、ナツは酷く驚いてそのまま固まってしまった。



「ああ、あのそんな、気にしてないから大丈夫です・・・」

ナツも恐縮しながらも、素直に答えていて、何だかひどく安心した。



「よかったな、なっちゃん。」

久地さんがそういって、ナツの頭を撫でてあげるから、ああそうかって気がついた。

頬を赤らめて、嬉しそうに楽しそうに笑う彼女は、やっぱり久地さんに夢中なんだ・・・





でも知っているんだろうか、







久地さんには、もう何十年も連れ添った、パートナーが居るってことを。




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