恋をしようよ
久地さんのDJが始まり、またナツは先週のように熱心に一曲一曲をかみ締めるように聴いていた。

その表情はまさに恋する女の子で、なんでやたら妬けるのかハッキリわかって微妙な気分だ。
この子はきっと、俺にはなびかない。

わかっているのに、気になって仕方ないのは何でだろうか。
ただの、男の狩猟本能だろうか?

手に入らない女ほど追いかけたくなるってやつ。


久地さんはどう思っているんだろう。適当に仲良くなって、何もせずに生殺しのままづるづると中途半端な関係を続けていくんだろうか。
あくまで、DJとそのファンという関係。それもアリなんだろうけど、いつもの久地さんなら、きっと普通の女の子なら手を出してる。
モテる人は、たいていパートナーがいてもうまく色んな子と関係を持っているもんだ。

まあ人の事言えないけど俺も。

ただ、わかっていて付いて行く女の子はいいんだけれど、きっとナツは違うだろう。




この前よりはゆっくりと過ごしていたので、帰る頃にはもううっすらと朝焼けさして明るくなっていた。

今日もどさくさにまぎれて、ナツを駅まで送っていた。


「なあナツ、今度飲みでも行かない?」

わざと軽い感じで誘うと、「今日も一緒に飲んだじゃないですか」なんて言われるので、クラヴじゃない店に行かないかってそこまで説明しなきゃいけないのかよって思う。

まあわざとだろうな、俺に興味のないしるしだ。


「御曹司は忙しいんじゃないですか?」

ちょっと酔っているのか、テンション高めにそんな風に茶化すから、そんなことねーよって俺も笑って答える。


「うまいもの食ってさ、ちゃんとデートしようぜ。」

小柄なナツの頭を、思わず撫でてやると、反射的に真っ赤になるのが面白くて、最後にくしゃっと撫で回す。

やっぱりこいつは、何だか可愛いなって思う。




「じゃあ、後でメールするわ。」

「期待しないで待ってますね。」



改札口で手を振って、さっさと帰って行く彼女の背中を眺めながら。
俺は何をしているんだろうって思い返していた。

このままつれて帰ればよかったとか後悔しながら。
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