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この制服には不釣り合いな腕時計は、高校に入学した時に祖父が買ってくれた物。

入学祝いに何が欲しい?と聞かれた時に、本当は何も欲しくなかったんだけれど、貰うなら時計が欲しいと言った。

携帯を開けば時間なんてわかるし、どこへ行っても時計くらいはある。

でも私はアナログの針が動くタイプの時計が欲しかった。

一秒まできっちり知らせてくれる時計。

本当はもっともっと早く進んでほしいけれど。

クリーム色の文字盤に、金色の針と数字。細くて長い秒針の先には小さなハート。

数字を囲むように外枠に付けられた、安っぽいけどキラキラした装飾。

ベルトはクリーム色で最近少し傷んでしまった事に気付いた。

女物だけれど存在感のあるこの腕時計を選んだのは、ちゃんと秒針と数字があるから。

変にお洒落にまとまった、秒針もなく、数字もないような時計では、時が刻まれているのがわからない。

セーターの中に隠れた腕時計を触わっていると、夕日が落ちてきているのに何だか気持ちがウキウキしてくる。

電車は私が降りる駅に停まるところだった。


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