against
『――涼子』

「綾菜?」

消えそうな綾菜の声は本当に雨音に消されてしまいそうだった。

よく聞こえないが、そういえばそろそろ下校時間だ。何も言わずに出てきた私が気になったのだろう。

「ごめん、先に帰っちゃって」

『うんん――』

言葉が途切れるのは雨のせいか、それともまだ体調が優れないのか。

綾菜を置いてきてしまった事を少し後悔した。

雨はさらに私を濡らし、髪からポタポタと雫が落ちてきている。

「大丈夫なの?」

周りの雑音のせいで心なしか声が大きくなってしまう。

やむを得ずベンチから立ち上がり、目に入った公民館跡を目指す。

立ち上がった時、黙っていた俊也が一瞬だけこちらに目を向けた。

一瞬だけ。

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