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公民館の屋根に潜り込むと、少しだけ静かになった気がした。

俊也は振り向く事なく、ただベンチに座って雨にうたれている。

靴下まで浸透してしまった足につく水が気持ち悪くて、壁に寄り掛かり、ローファーから左足を抜く。

そんな作業をしてしまうのは、電話の相手も、私も、俊也も何も喋らないから。

雨だけがうるさかった。

風が吹いて、後の今にも割れそうな硝子製の窓をガタガタ揺らす。

風と一緒に吹き付けた雨が目に入り細めると、小さな綾菜の声が耳に届く。

『――涼子、わ、たし』

雨が降ると電波まで悪くなるのかと思うほど、綾菜の声は途切れ途切れだった。

横に向かって吹きはじめた雨は、私の口も閉じさせ、上手く答える事ができない。

『――――み、たい』

「えっ、聞こえない」


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