against
恋愛中心で、熱いのは二人だけ。こちらは逆に冷めてしまう。

有り得ない出会いに、有り得ないくらいの男前。有り得ないくらい前向きな主人公がどうしても私には合わない。

女は現実的。男は夢見がち――そんなの嘘だ。

男の方がよっぽど現実的。夢を見ているのは女の方なんだ――

頁をめくるたびに、体が軽くなっていった。

気持ちが晴れていくってこんな感覚なのかな。

肩が心なしか下がり、顔の筋肉が揺るんでいく。息を一定のリズムで刻む事ができる。

波打つ心臓は静かに溶け込んでいく。

この時ばかりは腕の時計を気にせず、目の前の紙だけに集中することができた。



「――なんでジャンプ」

だから、時々吹く風の音にも、近寄る足音にも、全く気付く事がなかったんだ。



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