against
『人』としか認識できなかった自分が情けない。

相手が誰かということよりも、『見られた』という事の方が大事で、自分を隠す事に必死だった。

「――ってあれ? 同じ学校?」


うそ……一番最悪。

男は何か言おうとしたが、私の格好が気になったらしい。

隣に集中しだした私の感覚は、次第に男の視線までも感じるようになっていた。

顔をはっきり見られただろうか。今、立ち上がれば間に合うのではないか。

考えても考えても上手く逃げ切る自信がない。

堪える……違う。私は時が過ぎるのを待っているんだ。

でも出来る事ならこの男が来る前に……雨が止む前に戻りたい。

一瞬。自分でもビックリする考えが頭を通り過ぎていった。

『戻りたい』なんて――


「ふっ」

笑われた。

そりゃ笑うよ。こんな派手な格好して、こんな所で少年漫画読んでるんだもん。

もしかしたら私の正体に気付いているかもしれない。学校では目立つ方だし。

……って、こっちが『本物』か。


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