against
昨日いた『誰か』なのだろうか。

それにしては、緩い雰囲気をしている。

昨日見たその人は、ピンと糸を張ったように、いつ切れてもおかしくないような……それでいてその糸は強く全く切れる事がないような……

目の前にいる男とは真逆。

「やっぱ居ただろ?」

まじまじ見てしまった私に、男は困ったような顔でさらに質問する。

そんな顔をされても困る。私はある決意をした。


「来てない」


私は昨日、ここへ来ていない。そして、昨日の『誰か』がこの『男』でも私は何も見ていない。

これで全て終了する。

ただ、もう私はここへ来れなくなってしまうんだろうけれど。

「ふーん」

信じていませんといった返事が返ってくる。

「まぁいいや……で、」

で?まだあるの?

張り詰めていた気持ちが何だか緩んだ気がした。

あぁ夕日が沈んでいくからか。

男との接点をなくした事で、オレンジ色に染まった空を見上げる事ができた。


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