against
未来が曇り始めたとしても、時は進み違う未来を目指す。

それが私の生きる理由なんだ。

今日という日は長くて。覚えたてのあの曲も、定番のあの曲も、流行りのあの曲だって、全部同じに聞こえてしまう。

歌うことはこんなに辛いことだったっけ。

大音量のその中で、ちっぽけな私の願いは掻き消されていく。

絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたような壁紙と、やけにキラキラ輝く装飾のついた天井。

大きな画面からチカチカ流れる映像の、どれもが私を飲み込んでいった。

カラオケ屋を出てからも、奈津美は頭に残る歌を口ずさみながらご機嫌だった。
奈津美が笑うとホッとする。

それが何処からくる『ホッ』なのかは考えたくはない。

答えはきっと出ている。そんなの恐くて考えられない。

駅に着いた頃には暗くなっていて、人の少ないホームの明かりに虫たちが群がっていた。

硬いシートは今日も私を明日へ連れていく。

「じゃ〜ね〜」と笑顔の奈津美と別れ、今日は珍しく巻いた髪を手櫛でとかし伸ばした。

本当はぐちゃぐちゃにしてしまいたかったけれど、少なからずいる乗客を気にしてそれもできない。

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