against
昨日からその位置が私の位置。

しっくりこないその位置で、鞄よりも重たい両手の感覚。

いつまでこの位置は続くのだろう。

早く、早くこの時が進めばいいのに。

どんなに願ってもゆっくり、歩くよりも遅い時計の針は、大好きなはずなのに憎たらしく、なかなか進もうとしない。

考える時間なんていらない。

考えたって意味がない。

坂を上り、小さくてくだらない箱を目にした私は、今日をどう生きるか。そんな事ばかり考えては、さらに体を重くしていた。

人間って、その立場になって初めて気付く事が多い。実際、それを経験しなくてはわからない事だらけ。

いくらその人の気持ちをわかったような言い方ができたって、ただそれだけで。

奈津美の立場になると、見なくていいものを見たり、あるいは見られたり。

教室へ入る時、鞄を持ち替えた綾菜の指先が気になった。

人差し指のネイルだけ剥がれ、本来の爪の色を見せている。

綾菜はよく「なんでか人差し指だけ剥がれるんだよね」と言っていた。

だから人差し指だけはいつも気にして、剥がれる前に塗り直したりして。

よく見ると、人差し指だけだと思っていたそれは、他の指にも見られた。
< 52 / 163 >

この作品をシェア

pagetop