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「ごめんね、今日断って」

綾菜を見送ると、奈津美がゆるくなった髪を気にしながら言った。

「いいよ、また今度付き合って」

ちゃんと笑えてるかな。いつもの笑顔で。

ガタンガタンとよく揺れる車内。窓の外の世界も歪んで見える。

「な〜んかさっ、綾菜と行きたくなかったんだよね」

「え?」

自分でも顔が引き攣る気がした。

私に用意されている未来には、なかなかたどり着く事が出来ないんだって、そんな気持ちも湧いてくる。

「だって自分の都合のいい時だけ一緒に帰って遊びに行くなんて。 おかしいじゃん、そう思わない?」

「……う、ん」

そんなの私だってそう思う。思うけど……

何で人間、とくに女って話をややこしくしたがるのだろう。

そんな子もいるってあっさり流す事のできる人もいれば、何であの子はこうなの?と流す事の出来ない人もいる。

奈津美は確実に後者の方だ。

前者の方が生きていく上でリスクが少ないように私は思う。

それでもこのくだらない時の中にいる私たちは、後者の方が楽で、逆に後者でなければ生きていけないのかもしれない。

社会の常識や、家族から教えてもらうこと、そんな当たり前の事がこの世界では通用しない事も多い。

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