against
その色に染まれば、その色に染まってしまえば、その色が全てで、その色が正しい。

奈津美は最後までは言わなかったし、同意を求めた訳じゃないと思うけれど。

それがどうしても、『涼子も同じでしょ?』と言われているようで。

偽善者ぶるわけでもなく、同意することもなく、ただ自分がどの位置にいれば、楽に生きていけるかを考えるだけ。

人間なんて自分が一番大切なのだから。

今は時に任せる事にした。答えをだすのはまだ早い。

しかし、それも奈津美が電車を降りる直前に「ムカつくよね」と言った事で全て崩れてしまう気がした。

奈津美が去った電車の中は、早く学校が終わった事と、早く今日が終わった事によって、同じ制服の学生がちらほら。それに、歩くのも辛そうなおばあちゃん。
今日は客が多い。

泣きたい気分でも、怒りたい気分でもない。

ただ全てが黒く見えるような、それなのに真っ白にも見えて。

ぼーっと前を見つめていると、そのまま自分は違う世界にいけるんじゃないか、周りの物や人が全て消えてしまうんではないか。

そんな気分に襲われた。

恐くはない。時が刻まれているだけだから。


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