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すぐにパカッと携帯を開き、通話ボタンを押して、耳元へあてる。

ひと呼吸おいてから、話しだす。

「――もしもし」

『涼子?』

もっと慌てているか、もっと暗い声かと思った。急用でもなさそうだ。

綾菜はとても落ち着いた声で話を続ける。

『今どこ?』

「電車降りたとこだよ」

そう言うと電話の向こうから、安堵のため息が聞こえてくるようだった。綾菜の言わんとすることは、多少察しがつく。

『そっか……あのさ、コホッ』

綾菜は小さな咳に邪魔されたせいか、話しにくい内容なのか、話の続きをなかなか口にしない。

何か重要な話なのかもしれない。

何となくそう思った私は、改札口の右側にある壁にもたれるように、しゃがみ込んだ。
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