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いや、本当は生きていけるはず。親は働いているし、寝る所も、食べるものも、着る服も溢れている。

何が欲しいんだろう。

やっぱり意味がない。

風に揺れるフリーペーパーを地面に垂らして、無造作に置かれたパンプスの横に並べると、虚しさは一気に増して。

胸のあたりをくり抜かれた気がした。

何も持たない両手の甲を額にあて、目を閉じようとすると、微かに耳に音が届く。

こんな晴れた休日の午後に。

こんな場所に来る暇な奴なんて、あいつしかいない。

体を動かすことなく、目を閉じて、小さな足音を聞いていた。

「暇人」

温かい空気と共に聞こえたその声に、穴の空いた胸がゆっくり閉じていくようだった。

「あんたこそ」

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