against
やっぱり私は速く進む時計が欲しい。

こめかみに当たる腕時計が腕に私に食い込む。

「俺は――」

不意に聞こえた私の背中にあたる声に、逆に泣かされそうになる。

今日の俊也は私が後を向くと話出す。

「俺は――」

私と同じだった。

小さな間を作る俊也。

そこまで来ている涙を乾かすように、目をしっかり開いて俊也の言葉を待つ。

音を出すことが許されないような沈黙に、唾を飲み込むことすら忘れていた。

「俺は……それこそ壊れたように、時間が戻る、時計が欲しい」

時間が戻る?

私にたいする答えなんて、同意か否定かそれくらいしか考えていなかった。

俊也の意外な言葉に、鼻の奥を突き刺すように待っていた涙は、一気にひっこんだ。


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