against
ようやく味のなくなった卵を飲み込み、出会った頃の奈津美を思い出す。

何度考えても、今と同じふわっとした女らしい奈津美の姿しか思い出せない。

そう決め付けていただけで、きっと私のように奈津美も綾菜だって、何かを抱えて生きている。

それを知りたくなったのは、『戻る』が頭の中をぐるぐるまわっているからなのか。

それとも『進む』ことを諦めてしまったからなのか。

「食べないの?」

お弁当を開いたのに、手をつけようとしない綾菜。

「食欲ないや」

儚げなその表情は、お弁当を平気でたいらげてしまう私と違って、繊細だった。

こんな表情が私にもできれば、もっと楽に生きられるのに。

結局、綾菜はペットボトルに入ったお茶だけでお昼ご飯を済ませた。

それを目にすると、もともと細身の綾菜が痩せてしまったようにも見える。

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