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私は足元に転がるトイレットペーパーを拾いあげると、綾菜と顔を見合わせて笑った。

綾菜の笑った顔を見るのは久しぶりな気がする。

大きなリアクションをするわけではないけれど、微笑む綾菜はカワイイ。

綾菜の薄い唇を恋する少年のような気持ちで見つめていると、後の方から声がかかった。

「わりぃ、ってお前か」

私を『お前』なんて呼ぶ奴はこの学校で一人だけだ。

「しゅ…」

名前を呼ぼうとして言葉を切った。

綾菜はこの状況をどう思うのだろう。瞬時にそんなことが頭に浮かぶ。

そんな心配は意味がなかったかのように、スッと私の手から俊也がトイレットペーパーを取る時には綾菜が話していた。

「なんでトイレットペーパーなわけ?」

ふふっと笑いながら前からの友人かのように綾菜は俊也に問いかける。

「これ? ほらそこで」

俊也が指差す方を見ると、四、五人の男子がかたまって何やら楽しそうにしていた。

「ボーリング」

あほだ。

そんなあほと綾菜はこちらも楽しそうに話を終え、それぞれ歩き出した。


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