against
一瞬、こちらを向いて微笑んだ奈津美。

ただそれだけで。

険しい表情の強張った担任の後ろを、また静かに続いて廊下へ姿を消した。

担任が生徒を呼び出すなんて、ありふれていて。

それでも二人の様子と、後ろのロッカーの方から聞こえるヒソヒソとした話し声、その場の雰囲気から、ただ事ではないと悟った。

立ち尽くす私の隣にはいつの間にか綾菜がいて。

私と同じような表情でさっき奈津美が出ていった入口を見つめていた。

「奈津美……」

あの悲しそうな微笑みは何だったの?

< 92 / 163 >

この作品をシェア

pagetop