外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
オフィスに戻ると、私に気付いたなつみが、『あ』という形に口を開けて、駆け寄ってきた。


「七瀬!」

「休憩ありがとうございました」

「挨拶はいいから! ……ちょっと、こっち!」


カウンターについて業務を始めようとした私の腕を、なつみがグッと掴んで引っ張る。


「え? ちょっと?」


腕を引かれるがままカウンターから離れる。
なにも言わずにエントランスの隅っこに向かうなつみに戸惑い、私はその背に問いかけた。


「なつみ、どうし……」

「来たの。『例の』サラリーマン」


人気の少ない4コーナーの一角で、なつみは私の腕を解放してから声を潜めた。


「えっ」


険しい表情を浮かべるなつみの一言にギクッとして、私の顔は一瞬にして強張った。
反射的に背後を振り返り、そこに広がる総合エントランスを見渡す。


サッと視線を走らせながら、無意識に胸元をギュッと握りしめてしまう。
手の下で、胸がドキンドキンと、少し嫌なリズムで跳ね上がっているのがよくわかる。


「大丈夫。七瀬が休憩に入って十分くらい経った時だから、今はもういないはず」


なつみは私の反応を観察して、先手を打つようにそう続けた。
それでも、私の鼓動は不快なリズムを保ったまま、加速していく。
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