外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「君に心当たりがなかろうが、相手は君を『周防七瀬』だと認識している、ということだ。君の旧姓は知らない。新姓の方を知っている。つまり……君の知り合いではないのなら、多分俺絡みだ」

「え?」


思案顔の奏介に怯みながら、私は短く聞き返した。
彼は自分の言葉に納得するように、何度か小さく頷く。


「多分……じゃないな。十中八九、狙いは俺だろう」


視線を横に向け眉尻を上げる奏介に戸惑い、私はただ何度も瞬きを繰り返した。
それを視界の端で捉えていたのか、彼はハッとしたように口に手を当てた。


「君に迷惑をかけてすまない。……狙いが俺だと仮定すれば、オフィス街で埋もれる特徴皆無の四十代サラリーマンには、心当たりがある」

「えっ」


奏介がわずかに躊躇う様子で言った言葉に、私は思わず身を乗り出した。


「だ、誰!?」

「すまない。守秘義務があるので、これ以上は言えない」


奏介が私から目を逸らして続ける。
それには私も言葉をのんだ。


守秘義務――。
弁護士の奏介だけじゃなく、一般OLの私にだって、職務上、その言葉は纏わりつく。
奏介がその言葉を口にしたということで、それが今、彼が抱える企業裁判に関わることだと、私も合点した。
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