外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「す、すみません!」


いつ『どうぞ』と出されたんだろう?
まったく記憶になく、私は焦って両手で茶器を持った。
そのまま口元に運び、一気にくいっと傾ける。
ゆっくり二口飲んだ私に、藤悟さんが呆れたような溜め息をついた。


「どうやら、茶の味もわからないくらい、気はそぞろか」

「え?」


三口目を飲もうとして、私は手を止めた。
茶器を膝の上に下ろし、藤悟さんに恐る恐る上目遣いの視線を向ける。
彼は私の視線を受けて、ふうっと口をすぼめて息を吐いた。


「マズいって、わからないだろ?」

「え?」


溜め息交じりの問いかけに、私は無意識に手元に目を向けた。


「ま、また意地悪したんですか?」


初めてのお稽古の時と同じように憤慨したつもりなのに、声に力はこもらない。
藤悟さんは私をジッと見遣った後、小さく肩を竦めた。


「気付かれないようじゃ、やりがいないねえ」


揶揄する言い方だけど、そこにはわかりやすい失望が滲み出ている。
私はゴクッと唾を飲み、シャキッと背筋を伸ばした。


「申し訳ありません。気を引き締めます」


自分に言い聞かせるように言って、足の上に下ろした茶器をもう一度持ち上げた。
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