外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「源氏香、玉鬘。紫根絞りのがあるだろう。七瀬には絶対にそれが似合う」


そんな低い声と同時に、私の背後で襖が開いた。
藤悟さんの目線が私を通り越して斜め上に向くのを見ながら、私も背後を振り仰ぐ。
そこに、わずかにネクタイを寛げたスーツ姿の奏介が立っていた。


「奏介!」


私は声を弾ませてその場に立ち上がった。
奏介は一度私にちらりと目を向け、静かに襖を閉じて茶室内に入ってくる。
喉を仰け反らせるようにして奏介を見上げていた藤悟さんが、「ちっ」と小さな舌打ちをした。


「また、随分と間が悪い登場だな、奏介」


彼の舌打ちに思わず振り返った私の隣で、奏介が『ふん』と鼻を鳴らす。


「絶妙なタイミングの間違いだろ。兄貴、なにを嬉々として、七瀬の着付けをしようとしていやがる」


呆れたような、蔑みの色すら感じられる瞳で藤悟さんを一瞥し、奏介は私の横にドカッと腰を下ろした。
そして、迷う様子もなく、畳の上から着物の包みを一つ取り上げる。
それを「ん」と私に差し出すと鋭い視線を藤悟さんに流した。


「俺が着付けるから、兄貴はちょっとの間席を外せ」


鷹揚とも言える奏介の一言に、


「えっ!?」

「はあ?」


私と藤悟さんの反応が被った。
奏介が底冷えしそうなほど冷たい瞳で、藤悟さんをじろりと睨む。
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