外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
それを受けて、藤悟さんは、「はあっ」とお腹の底から深い息を吐いた。


「やれやれ……。わかったよ」


まるで外国人のように、両手を軽く横に広げて肩を竦める仕草を見せて、藤悟さんはその場に立ち上がった。
ゆっくりとお茶室を横切り、私の横をスッと通り過ぎていく。


「あ」


反射的に振り返ると、藤悟さんも襖に手をかけ、私を肩越しに見遣っていた。


「七瀬さん。庭に出てるから、着終わったら声かけて」

「は、はい」


慌てて返事をしてペコッと頭を下げる。
再び上げた時には襖はすでに閉まっていて、私は奏介と二人でお茶室に取り残されていた。
そっと彼に顔を向けると、奏介はまだどこか不機嫌に口をへの字に結んでいて、閉められた襖を睨んでいる。


「……奏介」


窘めるように呼びかけると、彼は「ふうっ」と口をすぼめて息を吐いた。


「あの男……油断も隙もないな。相変わらず節操がない」


そう言う奏介も、藤悟さんに対しては、相変わらず辛辣な物言い。
全然性格が違うのに、この兄弟はどこかよく似ている。
私は思わず苦笑した。


「そんな言い方しなくても」

「七瀬は優しすぎるんだよ。だから兄貴のヤツもつけ上がる」


奏介は忌々しげに溜め息をつき、ふっと目を伏せた。
そして気を取り直したようにスクッとその場に立ち上がり、わりと豪快にスーツの上着を脱ぐ。
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