外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「七瀬。袖の袂が乱れている。洋服でもできることだ、普段から意識して手を添えるようにしてみろ」


その声にハッとして、私は背後を振り仰いだ。
いつの間に戻っていたのか、奏介が襖の桟に手を遣り、私を見下ろしている。
私は彼の言葉に導かれ、自分の着物の袂に視線を落とした。


「茶道の所作は、なにも茶室のみで行う特別な動作じゃない。普段の日常生活でもちょっと意識して、気配り、心配りをすることで、美しい所作、立ち居振る舞いは自然と身についてくる」


奏介がそう続けながら、私の横に歩いてきた。


「はい」


私は顔を上げて奏介に返事をして、言われた通り、軽く腕を持ち上げて袂を押さえてみる。
確かに、藤悟さんはいつも、その仕草を自然に見せる。
目にする度に、溜め息が出るほど美しいと思った所作だ。


早速実践する私の隣に、奏介が静かに膝をついて正座した。
視界の端にそれが映り、無意識に彼の方に顔を向ける。


奏介は、顎を引きピンと背筋を張っている。
その姿をしっかりと目にして、胸の鼓動がドキッと跳ねるのを感じた。


「ん? なんだ?」


着物ではなくスーツ姿でも美しい、奏介の姿勢に、私は目を奪われた。
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