外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
何故私がそんな悲鳴をあげたかというと……。
その人が、着物の裾を大きく割って、足全体を剥き出しにしていたせいだ。
帯は解かずそのままだから、上半身にはそれほど乱れはない。


よほど窮屈だったのだろう。
けど、こんなとこでなんて格好!と思った途端、私はハッとした。


「あ、あなた。もしかして、『牧野晴彦』じゃ!!」


一瞬にして思考回路が繋がり、気が急いた私は、ほとんど条件反射で言い放っていた。
ポカンと口を開けて私を見上げていたその男が、わかりやすくギクリとした表情を浮かべる。


問いかけに返事はなくとも、彼の表情の変化を見て確信した。
明らかに着物に不慣れな人間のこの挙動。
あまりマメに手入れをしていなそうな、白髪交じりの髪は無理矢理ワックスで撫でつけてある。
痩せぎすな体型は、スーツ姿でも『冴えないくたびれた』印象だろう。


「お前……周防七瀬か」


ささっと着物を裾を無理矢理合わせ、立ち上がろうとするその人を見て、私はこの場をどうすべきか頭を働かせた。
淀みなく私の名を口にするくらいだから、この人が『牧野晴彦』だというのは決定的だ。
探して見つけたら捕まえなきゃ!と思っていたけど、実際見つけてしまうと、私一人でなにができるだろう。
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