外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
必死に後ずさって逃げるけれど、着物の小さな歩幅に慣れていないのは、私も同じだ。


「あっ……!」


土に草履を取られて、私は無様にもその場に尻餅をついてしまった。
それでも牧野は距離を詰めてくる。
私の恐怖を煽るように、ゆっくりゆっくり、足を踏み出してくる。
腰を抜かして立ち上がれないまま、ジタバタと足で土を蹴って逃げようとしても、無情にも距離は狭まる一方だ。


「悪いな、奥さん。恨むなら、頭が固く融通の利かない、有能すぎる旦那を恨んでくれよ!」


まるで、『ハッハッ』と舌を垂れて息をする、大型犬でも見ているような気分だった。
牧野が大きくナイフを振り上げた。
私は悲鳴をあげることもできず、ただギュッと固く目を閉じた。
次の瞬間襲ってくるだろう痛みを、覚悟していた。
ところが……。


「七瀬っ……!!」


痛みではなく、なにかが覆い被さってくるのがわかった。
ザッと引き裂くような音が耳の近くで聞こえ、私は反射的に目を開けた。
けれど、視界は暗く、なにが起きているのかわからない。
小さく声をのむ気配をすぐ耳元で感じて、慌てて首を横に捻った。


「っ……奏介!?」


私を囲い込んでいるのが奏介だと認識した。
薄暗い中でも、彼の顔が歪んでいるのを見て、私はハッとしてその胸に両手を突いた。


「奏介、怪我……!?」

「大丈夫。袖を掠めただけだ」
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