外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「あんたら外部のお偉い弁護士さんには、わからないんだよ。俺たちが、どれだけ心血注いで、あの製品を開発したかっ……!!」


静かでありながら、獣の咆哮のような声が薄暗い裏庭に響く。
私はギクッと身を竦ませたけれど、見上げる奏介の背中はぶれない。


「なにも知らないまま、親会社に奪い取られた。それを取り返そうとして、なにが悪い! なにも知らない人間たちに、勝手に正義を決められるんじゃ、こっちは大迷惑なんだよっ」


牧野の手が土を握り、震える。
一瞬沈黙した奏介も、きっとそれを見ていただろう。
でも彼は静かに淡々と告げた。


「そうだな。人はそれぞれ自分自身の正義を持っている。俺とお前の正義が異なるように、どれが正しいか、人間が決められるものではないのかもしれない」


その声は低く冷たく、牧野に降り注いだ。
それでも私は、呼吸音すら憚って、奏介の背中をジッと見上げた。


「複数の人間が正義を翳し、法廷でぶつかり合う。どちらが真の正義か。裁きの場で下される判決が、すべての人間を納得させ得るものではない。それはよくわかる」


奏介は声を乱れさせることなく滔々と説き、ゆっくりと身を屈めた。
草履の下から牧野のナイフを取り上げ、その刃をパチンと音を立てて折り畳む。


「だが俺は、依頼人の言う正義を信じ、彼らの信念を立証する。それが俺の……弁護士としての役目だ」
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