外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
その後――。
開廷時間を気にして慌てた奏介に、なぜか私は一緒にリムジンに乗せられ、上告審が行われる最高裁判所まで一緒に連れてこられてしまった。


私も奏介もちょっとドロドロの着物姿。
弁護人控室に飛び込んだのは、開廷十五分前ギリギリ。


上告審ということで浅倉総合法律事務所の所長や、他の弁護士も入廷していた。
アシスタントのパラリーガルにまで、わかりやすくギョッとされながらも、


「弁護士が法廷に立つ際の服装に規定はない。脱いで裸になるよりマシだろう」


奏介は開き直って言いのけた。
着替える時間もないまま、苦く渋い顔をして法廷に立った。


ニュースにもなっていた、大型企業裁判の上告審だ。
被告側の席に現れた麗しい和装弁護士の姿に、満席の傍聴人たちはざわめいた。
大注目を浴びた奏介が弁論に立つと、その力強く明朗な語り口調はもちろんのこと、凛と美しい立ち居振る舞いにも目を奪われ、惹き込まれ――。


その日、夕刻の報道番組でも最高裁の弁論に立った和装弁護士はトップニュースとして話題になった。
法廷画家が描いた、弁論する奏介のイラストは、『まるで平安の貴公子のよう』とSNSでも大反響だった。


けれど……。
それを見たどのくらいの人が気付いただろう。
奏介の着物、右の袂。
すっぱりと切り落とされていて、ほんのちょっと残念だったことを。
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