外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
『それでも、経営陣が上告審まで持ち込んだのは、牧野を始め、研究者の思いを貫くためだったそうだ。会社側が、リスクを冒してまで社員の心に寄り添う……。いい企業だ。こんなことになる前に、牧野に気付かせてやれればよかった。それが、今回の裁判での俺の失敗』


そう言って、自嘲気味に顔を歪めた奏介に、私は戸惑って『どうして?』と訊ねた。
それに、彼は、困ったように答えてくれた。


『弁護士は、罪を裁く人間じゃない。目に見えない真実から、大事なものを見つけ出し、依頼人に代わって法廷で主張するのが仕事だ。そういう意味で、依頼人のためには勝たなきゃならない。だが……たとえ敗訴の判決を受けても、依頼人が満足して判決を受け止められれば、俺にとっては勝ちだ』


そこで言葉を切った奏介に、質問を重ねることはできなかった。


原告側の上告取り下げという形で終わった裁判。
もしかしたら、奏介は、牧野を止められなかったことで、この裁判、『負けた』と感じていたのかもしれない……。


だから私は、なにも言わずに奏介を抱きしめた。
彼も、無言で私を抱きしめ返してくれた。
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