外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
月が替わり、七月に入ったその日――。


「ご来館、ありがとうございました」


入館タグを返しに来たお客様を見送り、私は「ふうっ」と声に出して息を吐いた。
梅雨真っ只中の総合受付の空気は、ちょっとどんよりしている。
正面玄関の向こうの通りには、傘を持ったビジネスマンが行き交っている。


自動空調なので、外気の温度に合わせてエアコンが作動するはずだけど、梅雨時は湿気が作用して上手く働かない。
さっきまでは寒さを感じたのに、お昼が近いこの時間、むしろ暑いくらいで、私は着ていたカーディガンを脱いだ。
そんな私に、


「な~な~せっ」


なつみが、こそっと呼びかけながら、身を寄せてくる。


「ねえねえ。お昼、一緒に行こうよ」


お昼に誘うだけにしては、妙に辺りを憚ってる感じ。
私は黙って苦笑した。


テナント企業が関わる大型裁判だったからか、私の同僚たちもその確定判決を知っているようだ。
奏介が和装で弁論に立った上告審のニュースも見たようで、彼が茶道家元の次男だということを知らなかった同僚には、根掘り葉掘り聞かれた。


それを知っているなつみが聞きたいのは、その後始まった、私たちの甘~い新婚生活のことに違いない。
今までのらりくらりと交わしていたせいか、休憩時間が被った今日、早速仕掛けてきた。
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