外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「あれは已むを得なかっただけで、着物で法廷に立つなど、金輪際ありえん。パフォーマンスじゃないんだぞ」


不機嫌な様子で淡々と言いのける奏介に、私はほんのちょっと苦笑した。
上告審初日での『和装弁護士』が、思いの外話題になってしまっている。
もちろん、奏介の言う通り、あれは話題になるのを狙ったパフォーマンスではないから、彼のこの頑なな反応もわかるのだけれど。


「……カッコよかった、けどな」


あの時の奏介を思い出して、私はボソッと独り言を漏らしてしまう。
それを聞き拾ったのか、ピタリと足を止めた奏介が「は?」と聞き返してきた。


本当はちょっと、またあの時の奏介を見たい、なんて、私も思っていたけれど……。
急いで勢いよく首を横に振る。


「なんでもない! 早く行こう」


そう誤魔化して、先を歩き始めた。
一瞬遅れて、奏介が私の後を追ってくる。
隣に並んだ奏介の横顔を見上げると、彼も私の視線に気付き、ふっと表情を和らげた。


「新婚旅行の行き先決めて、帰りに旅行会社に行くんだろ?」


耳に馴染む優しい声で訊ねられ、私は胸をきゅんとさせながら大きく頷いた。


「そうそう! もう七月になっちゃったし。急いで手配しないと、予約埋まっちゃうかもしれない」
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