外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
電話を切った後、ふーっとお腹の底から息を吐いた。
そんな自分の行動で、緊張のあまり無駄に呼吸を抑えていたことに気付いた。


相手は法律事務所だもの。
『法廷』という、普通の日常では口にすることのない単語がさらっと出てくるのも当然。
私は奏介の入館証を遺失物ボックスにしまいながら、そんな風に自分を納得させた。


一つの裁判って、いったいどのくらい時間がかかるものなのだろう。
一日に二つ三つの裁判に出ることもあるの?
それじゃあ、もしかしたら今日は来ないかな。
まったくの素人の私は、漠然とそんな疑問を抱いた。


いずれにせよ、弁護士さんとカウンターを挟んで向き合うことを想像するだけで、身が引きしまる。
論舌戦で相手を論破する弁護士さんに、『上条さんはどちらですか?』なあんて声をかけられることを予想して、私はずっと肩に力を込めていた。


だけど、その日、終業時間を過ぎても待ち人は現れず。
総合受付には、通常の日勤勤務時間の後、午後八時までは来客対応できるよう、一日に二人、遅番勤務者がカウンターに残ることになっている。
遅番の同僚に後を任せて、バックオフィスに向かいかけた、その時。


『すみません。周防と申しますが、上条さんは』


走って駆け込んで来た様子で、少し息を弾ませた奏介が、受付カウンターに座る同僚に声をかけているのが聞こえた。
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