外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
私は自分の名が呼ばれたことにハッとして、大きく振り返っていた。
そして、無意識にゴクリと唾を飲んだ。
初めて『弁護士』という職業の人を目にして、一瞬緩んだ緊張感が、再び高まってきたからだ。


彼の方は、同僚が私を振り返るのにつられたように、立ち止まる私に顔を向けた。
わずかに見開かれた切れ長の瞳が、一瞬にして私を射貫いた。


私の胸が大きな音を立てて跳ね上がったのは、畏怖の念すら覚える弁護士さんに、そんな目で見られたからだけじゃない。
彼がとても綺麗な顔立ちだったというのも、もちろん理由の一つだ。


同僚と奏介の視線に晒されて、私も足を止めてしまった手前、先を急ぐこともできない。
『あの』と声を喉に引っかからせながら、『私が上条です』と名乗った。


それを聞いた奏介が、一瞬『あ』と言うようにぽかんと口を開いた。
けれどすぐに唇を引き結び、キリッとした表情を浮かべた。


『業務時間を過ぎてしまいましたか。申し訳ない。ご連絡いただいておりました、浅倉総合法律事務所の周防です』


少しもぶれないまっすぐな瞳の前で、私は無意識に胸元を握りしめていた。
遅番の同僚が、業務を終えて帰ろうとしていた私を気遣って立ち上がり、自分が対応すると、奏介に声をかけていた気がする。
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