外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
それでも結局私が奏介の対応をしたのは、そのタイミングで来客が重なってしまい、遅番の二人は接客に入る必要があったからだ。
カウンターに戻り、遺失物返却の手続きを始めた私に、奏介は恐縮した様子で『時間外に、申し訳ない』と何度も謝ってくれた。


『ご対応、感謝します』


偉ぶったところなんかなく、とても真面目に丁寧なお礼を口にする奏介に、私はごく当たり前に好感を抱いた。


『時間外と言っても、ほんの十分くらいですから。どうぞ、お気になさらず』


ニコッと笑ってカウンター越しに見上げると、奏介もホッとしたように表情を和らげた。
目鼻立ちの整った、端整な顔。
彼が私に向けたその笑顔に、私の胸は抗いようもなくドキッと弾んだ。
彼は私の胸の反応には気付く様子もなく、静かに続けた。


『それに……私が不在と知ったら、事務所の受付や総務部に預けてしまえば済む話ですよね。しかしあなたは、次に私が入館する時のことを気遣ってくれたのでしょう?』


ドキドキして頬を赤く染め、返事に窮した私に、奏介は『ありがとう』とお礼を繰り返してくれた。


『今日はお帰りのところでお引止めできませんが、また改めてお礼をさせてください。ご迷惑でなければ、今度食事にお誘いしていいですか?』


さすが弁護士、と思ってしまう流暢な言葉回し。
紳士的でストレートなお誘いに、私は胸を高鳴らせてしまった。
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