外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
藤悟さんはさらっと言って、私たちの方に向かって廊下を歩いてくる。
奏介の横を擦り抜け際に、私にニコッと笑いかけてきた。


「じゃ、七瀬さん。来週都合つく日は、後日メールする」

「あ、はい。ありがとう、ございます……」


早速来週時間を取ってくれる藤悟さんに感謝して、私は頭を下げた。
そこに、奏介が「えっ?」と戸惑うような声を挟む。
私は顔を上げて、彼のスーツの袖をちょんと摘まんだ。


「あのね、奏介。私、藤悟さんからお茶のお作法教えてもらうことになったの」

「……はあ?」

「じゃ、お邪魔しました」


私の説明にぽかんと口を開ける奏介に構わず、藤悟さんはヒラヒラと手を振って、ドアを開けて通路に出て行った。


「あ、お気をつけて」


私はドアが閉まる前に手で押さえ、そこからひょこっと顔を出してお見送りをする。
藤悟さんが私に応えて、肩の高さに手を上げるのを見送る。
ふうっと口をすぼめて息を吐き、ドアを閉め、鍵をかけた。
途端に、奏介が「おい」と私の肩を掴んできた。


「七瀬、どういうことだ? どうして兄貴に……」


奏介は困惑し切った表情で、ぐぐっと私を覗き込む。
それには思わず背を仰け反らした。


「ご、ごめんなさい、急に。ちゃんと説明するから」


肩を縮めて謝る私の前で、奏介はどこか納得いかなそうにガシガシと頭を掻いた。
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