外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
「そんなこと。そんなこと、気にしなくていい」

『本当に、すまん』

「奏介、奏介は大丈夫? 昨夜、約束したでしょ。無理しないで。ちゃんと身体……」


やるせない思いに駆られ、私は奏介の謝罪を遮って畳みかけた。
それには、『ああ』と短い返事が返ってくる。


「よかった」


無意識にホッと安堵の息を吐く。
奏介が黙っているから、私はちょっと遠慮がちに「あの」と声をかけた。


「奏介……。週末は、少しは帰って来れるよね?」


どこか恐る恐る窺うような口調になったのが、奏介にも伝わってしまったようだ。
彼はわずかに逡巡するような間を置いた後、小さな溜め息を漏らした。


「そうしたいから、今週はちょっと仕事を詰める。平日は帰れても午前様になりそうだ」

「……そ、っか」


奏介の方も言いづらいのか、歯切れの悪い口調だったから、私も残念そうな声を聞かせたくない。
なのに、喉に声が張りついて、それしか言えなかった。


床にペタンと横座りして、片手をつき、ギュッと握りしめる。
目線を落とすと、フローリングの木目模様がぐらっと歪んだような気がした。
慌てて固く目を閉じ、小さな息を吐きながら再び目を開いた。
スマホから、『七瀬』と気遣うような呼びかけが聞こえる。
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