外ではクールな弁護士も家では新妻といちゃいちゃしたい
藤悟さんはさらに謝罪を繰り返して、笑いを鎮めるように大きな深呼吸をした。


「やっぱり、初心者の反応は、可愛くていいなあ」


彼が呟くのを、もう一度ごっくんとお茶を飲みながら聞いた。
最後に一際大きく茶器を傾け、ふんわりときめ細かい泡の立ったお茶を飲み干すと、両手で畳の上に置いた。


「ご馳走様でした」

「お粗末様です」

「あの……他の初心者だと、どんな反応するんですか?」


姿勢を正して訊ねてみると、藤悟さんは着物の袂を片手で押さえながら、私が使った茶器に腕を伸ばした。
そんな仕草にもつい見惚れていると、藤悟さんは「んー」と考えるように目線を上げる。


「まあ、最近は普通のカフェなんかでも、気軽に味わえるようになったからね。苦味にそこそこ慣れてる人が多いけど、『美味しい』とか『甘い』って感想は初心者からは出てこないな」


藤悟さんは次のお茶を点てようとしているのか、新しい茶器を用意した。
棗と呼ばれる薄茶入れから、茶杓で抹茶を掬い入れながら、茶釜がしゅんしゅんと湯気を立てる様を見つめている。


彼が口にしたその言葉に、一口で『まろやか』なんて感想が言えなかった自分も、どうやらそう珍しいわけではないとわかる。
ほんの少しホッとして、胸を撫で下ろした。


「それよりも、七瀬さんが違うのは、点てている時の目線かな」

「え?」
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