クールな社長の裏の顔
いきなりの誘いに、彩矢は目を白黒させる。

「あ、あのー。それはどういう意味で…」


「えっと、いつもみてました。あなたは俺みたいな地味な男にも笑顔で挨拶してくれて。そ、その。笑顔が可愛いなって、ずっと思ってて」


笑顔で挨拶は誰にでもしていたと思う。


当たり前のことをしただけなのに、そんな風に思ってもらえてたなんてー。



「あ、ありがとうございます。あの、嬉しいです。そんな風に言っていただけて」



「い、いえ。あの! 初めて見たときから好きでした! 俺と付き合って下さい!!」


「えっ」


彼は、がばっと勢いよく90度に腰を曲げて告白してきた。


「ちょっ、ちょっと、あのっ」


どうしよう。


道行く人が遠巻きに彩矢達をみて、耳をそばだてている。


恥ずかしい。


恥ずかしすぎる。


「あ、あの。頭、あげてください」



「あ、す、すみません」


彼は我に返ったのか、慌てて頭を上げた。



「あ、お、俺、てんぱって。すみません」



「え、いえ。あの」


「……杉山、彩矢さんですよね」


「え、名前。どうして……」


そこまで言いかけてはっと思い出す。


首にぶらさげている名札には、顔と名前が記されている。


彼はそれをみたのだろう。



「あ、俺はここの5階の立花電機というところで営業してます、田村幸樹です」


「あ、は、はじめまして。杉山彩矢です」


名前を名乗られて、彩矢も自己紹介して頭を下げると、彼はうっとりとした表情を浮かべた・


「やっぱり、可愛いですね」


「え、いえ」


どうしよう。少し、怖い。


見た目は真面目そうな青年だが、なんというか、思い込みが激しそうな人だ。


ここは変に機期待をされるよりも、きっぱりと断ったほうがいいだろう。


「あ、あの。イタリアン料理は好きですか? お、俺。夜景がみえるいいところ知ってますので、よかったら」


「え、いえ。あの、今夜はちょっと」


「あ。都合、悪いですか? 急ですもんね。いつならあいてますか?」


 じりっと、彼が一歩前に踏み出してきて、反射的に彩矢は一歩引いた。


「あ、あの。えと、ちょっと落ち着いてください」


「あ、す、杉山さん、俺、本当にあなたのこと大好きで」


異性にこんなに情熱的に迫られたことのない彩矢は、どう切り返せばいいのかわからない。


どうすればいいか困り果てていると―。


「彩矢」




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