クールな社長の裏の顔
え―。
ふいに聞こえてきた声に、彩矢は目を瞠目させた。
(社長―!?)
どうやら、社長も食事から戻ってきたところのようだ。
まさか、社長にこんな状況を見られるなんて―。
動揺のあまり、顔がかっと赤くなる。いや、それよりもなによりも、もっと重大なこと。
(い、今、彩矢って呼ばなかった……?)
社長はいつものクールな表情で歩み寄ってきて、彩矢と彼を交互に見つめる。
「どうかしたのか、彩矢」
「え、えと」
「なんなんですか、あんた」
いきなり乱入してきた社長に、彼はむっとした顔をして社長を睨みつける。
社長は彩矢をかばうようにすっと前にでた。
大きな背中にすっぽり隠れた彩矢は、固唾をのんで見守った。
「俺の女に何か用か?」
そして社長の口からでた言葉に、彩矢は瞠目して、社長を見上げた。
(お、俺の女って、え、なに)
もう、頭の中がパニックになって、思考が追い付かない。
声をあげそうになって、慌てて口をつぐむ。
今ここで彩矢が否定すれば、もっと複雑な事態になりそうだと思ったから。
「お、俺のって。杉山さん、彼氏、いたんですか……?」
驚きと落胆の入り混じった声音で問われ、彩矢はどう答えようか戸惑った。
困惑している彩矢の変わりに、社長が堂々と宣言した。
「こいつは俺と付き合ってる。悪いが諦めてくれ」
驚いたのは、彼だけじゃない。
彩矢も、驚愕して口をあんぐりと開け、固まった。
しれっと言い切った社長は、小さく嘆息して後ろを振り向く。
「行くぞ、彩矢」
すっと、彩矢の細い腰に手を回した社長にぴったりと寄り添う格好になってしまい、彩矢の緊張はピークに達した。
事務所に戻る途中の廊下で、ふと社長が彩矢をみた。
いつもの、クールな顔つきでじっと彩矢を見つめてくる。
思いのほか強い視線に、彩矢はたじろく。
「今夜、あいてるか? 飲みに付き合ってくれ」
「え、あ、はい。分かりました。ほかのみなさんにも声をかけて」
彩矢が事務所の入り口のドアノブを手にしたところで、ふいに、社長の大きな手が重なった。
重ねられた手に、心臓が大きくはねた。
そして社長は彩矢の右耳にそっと、囁く。
「アホ。この状況でなんで他の社員と行くと思ってるんだ。君と二人きりに決まってるだろう」
耳元で甘く囁かれ、彩矢の身体がぞくっと震える。
その反応をみた社長が、ふっと、不適に笑んだ。
「最後まで残ってろ」
またも耳元で囁いて、先に社長が事務所内に入っていった。
彩矢は金縛りにでもあったかのように固まって、しばらく動くことができなかった―。
ふいに聞こえてきた声に、彩矢は目を瞠目させた。
(社長―!?)
どうやら、社長も食事から戻ってきたところのようだ。
まさか、社長にこんな状況を見られるなんて―。
動揺のあまり、顔がかっと赤くなる。いや、それよりもなによりも、もっと重大なこと。
(い、今、彩矢って呼ばなかった……?)
社長はいつものクールな表情で歩み寄ってきて、彩矢と彼を交互に見つめる。
「どうかしたのか、彩矢」
「え、えと」
「なんなんですか、あんた」
いきなり乱入してきた社長に、彼はむっとした顔をして社長を睨みつける。
社長は彩矢をかばうようにすっと前にでた。
大きな背中にすっぽり隠れた彩矢は、固唾をのんで見守った。
「俺の女に何か用か?」
そして社長の口からでた言葉に、彩矢は瞠目して、社長を見上げた。
(お、俺の女って、え、なに)
もう、頭の中がパニックになって、思考が追い付かない。
声をあげそうになって、慌てて口をつぐむ。
今ここで彩矢が否定すれば、もっと複雑な事態になりそうだと思ったから。
「お、俺のって。杉山さん、彼氏、いたんですか……?」
驚きと落胆の入り混じった声音で問われ、彩矢はどう答えようか戸惑った。
困惑している彩矢の変わりに、社長が堂々と宣言した。
「こいつは俺と付き合ってる。悪いが諦めてくれ」
驚いたのは、彼だけじゃない。
彩矢も、驚愕して口をあんぐりと開け、固まった。
しれっと言い切った社長は、小さく嘆息して後ろを振り向く。
「行くぞ、彩矢」
すっと、彩矢の細い腰に手を回した社長にぴったりと寄り添う格好になってしまい、彩矢の緊張はピークに達した。
事務所に戻る途中の廊下で、ふと社長が彩矢をみた。
いつもの、クールな顔つきでじっと彩矢を見つめてくる。
思いのほか強い視線に、彩矢はたじろく。
「今夜、あいてるか? 飲みに付き合ってくれ」
「え、あ、はい。分かりました。ほかのみなさんにも声をかけて」
彩矢が事務所の入り口のドアノブを手にしたところで、ふいに、社長の大きな手が重なった。
重ねられた手に、心臓が大きくはねた。
そして社長は彩矢の右耳にそっと、囁く。
「アホ。この状況でなんで他の社員と行くと思ってるんだ。君と二人きりに決まってるだろう」
耳元で甘く囁かれ、彩矢の身体がぞくっと震える。
その反応をみた社長が、ふっと、不適に笑んだ。
「最後まで残ってろ」
またも耳元で囁いて、先に社長が事務所内に入っていった。
彩矢は金縛りにでもあったかのように固まって、しばらく動くことができなかった―。