扉の向こうはいつも雨
「さて。本題。
 君は儀式や僕のことをどんな風に聞いてるの?」

「それは………。」

 本人に言うのもおかしな話だけれど、神の子オッドアイの絵本の話や、その他にも自分が知る限りのことを話した。

「僕とだいたい同じだ。」

 何かを考えている様子の彼に抑えられない思いをぶつけた。

「あ、あの。
 私が食べられたら………。
 もう他の人は食べなくて済むんですよね?」

 つい勢い余って詰め寄るように問いただすと驚いている瞳と目が合った。

 今は……目が合っても体が固まることはなかった。
 能力は出すのも止めるのも自由自在なのもしれない。

「ご、ごめんなさい。突然。」

 面食らっていた彼に素直に謝った。
 今度は笑われることなく不思議そうに、どちらかと言えば不機嫌そうに聞き返された。

「いいや。いいんだ。
 それよりどうしてそんなことに拘るの?
 君を食べれば、君はもうこの世にいないんだよ?
 その後にどうなろうと……。」

「それでも!
 それでもどうなるのか知りたいんです。」

 怖れていた瞳を見つめ返した。
 ここで目を逸らしたら負けの気がした。

 人間、一度死んだと思ったら強くなれるって本当かもしれない。

 しばらく見つめ合って、というよりも睨み合っていた2人。
 先に視線を外したのは彼の方だった。

 息をついた彼は仕方なさそうに口を開いた。

「そうだね。1人で十分のはずだ。
 突然変異で生まれる僕みたいなのは神の子と呼ばれる一方で人喰い人種と呼ばれる。」

 やっぱり人喰い人種なんだ。
 分かっていた現実を改めて突きつけられた気分だった。

 彼は尚も続けた。

「人喰いと言っても生け贄を食べることにより栄養を得られて弱い体を強くすることが出来るらしい。」

「それは……私の身ひとつで足りますか?」

 フッと笑った彼が瞳を怪しく光らせた。
 その瞳に禍々しい光を纏わせて告げる。
 やはり彼は聞いていた通りの神の子。
 辻本宗一郎なのだ。

「そっか。君には妹がいるんだったね。
 君が逃げれば………。」

 全てを言われなくても分かっている。
 お陰で今一度、覚悟を決めることが出来た。

 残酷な現実は何も変わっていないのだから。

「逃げたりしません。」

「そう?」

 宗一郎は満足そうとも不満とも取れない返事をした。





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