扉の向こうはいつも雨
「いつなのか分からないですが……。
 食べられるその日まで宗一郎さんを愛そうと決めました。」

 この小娘は何を言い出したんだ。
 そう言わんばかりの顔はため息を吐いて険しい表情を浮かべた。

 本棚の前にいた宗一郎は険しい顔で桃香を一瞥してリビングを出ていった。

 やってしまった。
 言わなければ良かった。

 後悔は後から後から押し寄せて来ても、口から出た言葉は取り戻せなかった。

 所詮は生け贄。宗一郎の食糧なのだ。
 食糧が愛すなどと。

 涙がこぼれそうになって慌てて窓の外を眺めた。
 ここに来てからのいつもの風景が見えた。
 空は高く晴れ渡り、雲が数個、気持ちよさそうに泳いでいる。

 あんなことを言っておいて……。
 本当はもう多分どうしようもないくらいに宗一郎を愛している。

 何も出来ない自分に宗一郎は優しい。
 食糧だから丁重に。ということを差し引いても優しい。
 きっともう本当に宗一郎になら食べられても構わない。

 けれど……思ってもみなかった。
 愛してしまったら離れたくなくなるってことを。






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