扉の向こうはいつも雨
 どれほどの時間が経っただろうか。
 玄関が開かれた音を聞いて我に返った。

 医師の塚田の声がして、宗一郎が呼んだことが伺えた。
 塚田はあの傷や痣のこと、ひいては人喰いのことも知っているのだろう。

 自分の味方など最初からいないのだ。

 食べられるつもりで身を差し出したくせに今さら命が欲しいなんて……。
 自分の思考回路の甘さに嘲笑して、よろよろとベッドへ歩いて、体をベッドに預けた。

 もう何も考えたくなかった。

 未だ生きていることを呪った自分は死ねない自殺志願者のような気持ちだった。
 ずっと、ずっと、自分が生け贄だと理解してからずっと。

 そして今も。

 事あるごとに食べたらいいと言う。
 それなのに死を怖れ、逃げ惑う。
 惨めで滑稽で情けない。

 半日前まで僅かでも愛を信じていたのに、今はもう何も信じられなかった。




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