扉の向こうはいつも雨
桃香の考えを知ってか知らずか、塚田は続けて話す。
「で、話を戻すと、人間……つまりあんたを食べたところで身体的変化は望めない。
このことについては宗一郎も理解している。」
「じゃ……。」
昨日のことはなんだったのか。
昨日だけじゃない。
説明がつかないことが山積みだ。
私達の関係は全て自分が生け贄という立場で成り立っているようなものなのだから。
「頭で分かっていても宗一郎の場合はダメなんだ。
言うなれば言葉の呪縛だな。」
また別の切り口で話し始める塚田の話を何故だか聞き入っていた。
「食べれば弱い体が強くなる。
子どもの頃から言われ続け、人間を食べることに向けた儀式をして。
頭では否定していても自分は人間を食べなければならないと強迫観念のように植えつけられた。」
桃香の生け贄と同じだ。
神の子に食べられる宿命だと、毎年、毎年、恐怖を植えつけられた。
塚田はため息混じりに付け加えた。
「その上、食べてくださいと言われれば………。」
「どうしてそれを……。」
見ていたのかと思える言い振りに驚き、言葉を詰まらせた。
「そんなことだろうと思った。」
意地悪な顔を向けられてカマをかけられたのだと気づく。
本当にこの人は宗一郎さんのお友達なのだろうか……と疑惑の目を向けた。
そんな視線を気にするわけもなく、急に医師らしくなって診断結果を話すみたいに告げた。
「宗一郎と奥さんは腹を割って話すこと。
それが主治医としての判断。」
「奥さん……ではないので。」
表向きは婚約者かもしれない。
それは仕方なくそうなだけであって……。
「奥さんではなく生け贄ですからって?
それがあいつを傷つけてる自覚を持てよ。」
冷ややかな視線を向けられて口を噤んだ。
これではまた同じ押し問答になってしまう。