扉の向こうはいつも雨
 やっとリビングへ顔を出した宗一郎はやつれた姿だった。

「大丈夫ですか?
 ちゃんと食べられてました?
 私の食事を気にするより……。」

 以前よりもずっと鋭い眼差しで一瞥されて最後まで声にならなかった。

 ソファから浮かせた腰をよろめくように再びソファに落とした。

 宗一郎は離れた場所に腰を下ろした。
 広げた両手を見下ろしている宗一郎のその両手はワナワナと震えている。

 そして絶望とも取れる声でうめくように話し始めた。

「僕がいなければ……。
 どうして初めから……最初のオッドアイが生まれた時に処刑するなりどうにかしてくれなかったんだ。
 そうすれば僕は生まれて来ずに済んだかもしれないのに………。」

 悲痛な心の叫びは胸を切り裂かれているような気持ちになった。

『辻本太郎』と書かれた家系図は続きがあった。
『樋口きぬ』と別に『野上はな』と婚姻した記述がされていたのだ。

 そして『樋口きぬ』とは続いていかない家系図は『野上はな』の方で子どもから孫へと続いていた。

 生け贄を捧げられた神の子は強い体を得て子孫を残す。
 当たり前の図式なのに目の当たりにするのはつらかった。

 それは違った理由で宗一郎も同じだったのかもしれない。

 辻本家と樋口家との婚姻から分かる神の子。
 16歳で亡くなった『樋口きぬ』は生け贄にされたことは想像に難くない。
 そうして生き長らえた神の子の子孫であるという十字架は耐えがたいものなのかもしれない。

 何より自分自身も紛うなき神の子……。

 樋口家の家系図は見なかったのではなく、見れなかったのだろう。

 神の子……人食い人種は両家ではなく、辻本家のみに起こる異変なのではないかという事実に気づいてしまったから。

 それでも…………。

「そんなこと言わないで下さい。
 私は宗一郎さんにそれでも会いたい。
 私は……。」

 強くつかまれた腕に痛みを感じて目を閉じた。
 何を言ってももう宗一郎の心は決まっていることは分かっていた。

 それを表す様に宗一郎は告げた。

「儀式の場に行きたい。」

 目を開いて宗一郎を見ると宗一郎もこちらを見ていた。
 桃香を真っ直ぐ見つめる瞳に迷いはなかった。

 信じよう。

 例え、もう一度……本儀式をやり直すつもりだとしても。






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