扉の向こうはいつも雨
「そこで私達は出会った。
 悲運な運命の元での出会い。
 食べることは、出来なかった。」

「出来なかった………。
 食べなかったんだ!太郎さんも!」

 顔を上げ、喜びを分かち合おうとしたが、宗一郎は尚も続きを読み上げる。

「皆をあざむく為に名を変え新しく『はな』として婚姻を結んだ。」

 ずっと変わらない口調で読んでいた宗一郎の声が霞んできた。
 それでも涙で濡れて揺れて掠れても宗一郎は続きを読み進めた。

「どうか私の子ども達。
 過ちを繰り返さないで欲しい。
 人を食べなければ鬼になる。
 そんな誤った言い伝えの為にどうか苦しまないで欲しい。

 そして、食べていないと言えなかった私達をどうか許して欲しい。
 真実を叫べば私達の命は無いのだから。

 宿命に惑わされず2人共に生きていく道があると信じた者がここへ来ることを願う。

 可愛い子ども達。
 もし叶うのなら、もう1人の美しい欠陥品をこの目で見たかった。

 辻本太郎
   はな」

 2人の連名で締めくくられた最後を読み終えると、宗一郎はその場に崩れ落ちた。









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